データモデルの二種類の流儀
前ページで、データモデルとは電子データのひな形(テンプレート)であることを説明しました。ここからは、個別のデータモデルには「目的別データモデル」とでも呼ぶべきタイプのものと、「多目的にデータモデル」と呼ぶべきタイプのものがある事を説明します。
目的別データモデル
一般的には帳票を策定する際、多様な目的に合致する様な帳票を策定する事はあまりなく、目的ごとに帳票を作ります。これは、多くの場合帳票は帳票を受け取る側が策定するためです。帳票は目的に合わせて作った方が必要な情報に洩れは発生しにくく、必要な情報が帳票上に揃っているので帳票を受け取る側にとってはとても便利だからです。
本章の最初のページでは「防火対象物点検結果報告書」という帳票を例にとって説明しました。実際の業務では、他にも膨大な種類の帳票があります。例えば、以下は12条点検(建築基準法に基づく定期的な点検のこと)と呼ばれる業務で使われる帳票群のごく一部です。

この帳票でも、多くの場合帳票を受け取った側の利便性を考えて必要な情報を一括して見る事が出来る様になっていますね。これらの人間用の帳票をそのままコンピュータ用の帳票(データモデル)に置き換えたものを、本ホームページの説明では「目的別データモデル」と記載しています。
以下、目的別データモデルの特徴を改めてまとめます。尚、データモデルとはコンピュータ用の帳票のひな形がでしたから、目的別データモデルの特徴と普段使う紙帳票との特徴は一致しています。
- 特定の目的に合わせて最適設計されています
- 必要な情報が集められています。例えば前記の例では、報告者の情報・対象建物の情報・点検の情報・検査者の情報・受付プロセスの情報などが一括して確認できる様になっています
この様に情報を受け取る側には大きなメリットがありました。一方、デメリットもあります。前記の帳票をよく見ると、報告者と検査者と所有者の様に、情報が違うけれど形式が同じものも多数散見されます。一方で、建物の情報を見ると、色々な帳票のアチコチに同じ内容が多数散在しています。このため、帳票保提出する側にとってはとても記入が面倒なものになってしまいがちです。
また、特定の目的に最適化して項目を取捨選択している、言い換えると受け取り側にとって有用な情報以外は通常記入しなくて済むようになっています。このため、帳票を設計した当初の目的外に建築物などの情報を活用したいと考えると、色々な帳票をひっくり返して必要なな情報を探しだす必要があります。これは、業務が100あれは、100の帳票が出来上がる事を意味しており、結局は帳票を提出する側の負荷をぞうだいさせてしまいます。
人間が使う帳票と同様にデータモデルも目的別データモデルが多用されています。特に表計算ソフトなどを使って人間が作業する事を前提としたデータは殆どが目的別データモデルで作成させていると思われます。
多目的データモデル
目的別データモデルでできたデータを多目的に使う事はできるのでしょうか。その答えは「多様な帳票をかき集めて情報を突き合わせる事が出来れば他の目的にも活用出来る場合がある」です。ではどうすれば良いのでしょうか。それの答えは、「帳票をモノやコト毎に作れば多目的に使える」という事になります。ここでいうモノとは施設・設備・建物・人・法人などを指しています。また、コトとは検査・報告・不具合発生・修繕などの事象や行動を指しています。この場合の帳票はモノやコト毎に整理されますから、帳票というよりも台帳と呼んだ方がしっくりくるかもしれません。つまりデータモデルはどの様な台帳があり、それぞれの台帳の管理や記入のルールはどうなっているのかを示したものと言い換える事もできます。
では、多様な帳票をかき集めてモノやコトごとに分類する(台帳化する)とはどういう作業でしょうか。
ますば、多目的に使えるデータに変換できる例を示します。ここでは前出の12条点検の帳票を使います。下図の様に各帳票の項目を一旦バラバラにして、情報の内容ごとにひとまとめにしておくと、多目的に利用しやすくなります。この情報の内容ごとにまとめたデータモデルを共通データ仕様では文字通り「多目的データモデル」と呼んでいます。

図中で赤字で記載した項目は帳票間の「関係」を示す項目です。この様に法人・施設・不具合をそれぞれ別々に台帳化して報告書には関係を示す項目をせていする事で多目的データモデルに変換する事が可能です。この変換が可能となる理由は、施設と所有者の関係などは帳票にその説明がなくても世の中の常識として理解できるためです。一般的にはモノやコトの相互の関係は関係者しか知らない場合があります。その様な場合にはその分野に精通する専門家の参画が必要となります。尚、この目的別データモデルから多目的データモデルに変換する作業を技術用語では「正規化する」と言います。データベースの技術者は最初に習うデータ管理の基本となる考え方です。
PPP共通データ仕様協議会が公開している共通データ仕様は基本的にはこの多目的データモデルになっています。但し、過去の実績などの統計情報を保存しておくためのデータモデルだけは、目的別データモデルになっています。
以下。多目的データモデルの特徴をまとめます。
- 多目的に情報を活用できる設計になっています
- 基本的に、土地・建物・法人・人などの「モノ」や事故・報告・検査などの「コト」に対応して作られます
- 情報に修正が必要な場合、ひとつの帳票を書き換えるだけで済みます
- (コンピュータにとっては何でもない作業ですが) もし人間が手作業で何かをしようとした場合、情報が複数の帳票に分かれているので、探す手間がかかります
多目的データモデルと目的別データモデルの比較
繰り返しになりますが、多目的データモデルと目的別データモデルを比較してみましょう。以下の表にまとめました。
比較観点
多目的データモデル
目的別データモデル
設計の考え方
実際のモノやコト毎にデータモデルを策定し、モノやコトの属性をそのまま項目とする事で、モノやコトを対象とする多様な業務からデータを利用可能とする
データを活用する業務や作業に最適化してデータモデルを策定する
メリット
- 多様な業務から利用可能
- 同じ情報をアチコチに登録する必要が無い
- 情報を更新する際には、一か所を更新するだけで済む
- 必要な情報がひとつのデータにひとまとめにされている
デメリット
- 業務に合わせて複数のデータを組み合わせて利用する必要がある
- 目的ごとに多数のデータモデルを策定する必要がある
- データを提供する側がそれぞれのデータモデルに合わせてデータを作成する必要がある
- データを提供する際、関係する部門などから情報収集してまとめる必要がある
利用局面
- 利用目的が限定できないスマートシティ、企業内のマスタデータベース
- 多様な情報を引き渡す必要がある、業務引継ぎなど
- BIMなどの複雑な構造を持つデータの蓄積や活用
- 国内の殆どのオープンデータ
- インタフェース仕様
- 申請・報告などに伴うの定型的な情報提供
- 表計算ソフトやCSVのデータ
この様に、多目的データモデルと目的別データモデルはどちらが優れているというものではなく、それぞれの特徴を生かして選択すべきものです。また、目的別データモデルでも、一部の情報は多目的データモデルの考え方を取り入れる事も可能です。例えば、行政に対する申請時にマイナンバーなどを記入する事で、記入する項目の数がむやみに増えずに済んでいる例もあります。



