業務への適用 (包括施設管理の場合) (1/4)

 共通データ仕様自体は包括施設管理だけに特化したものではありませんが、この章では公共施設に関する施設管理を「包括施設管理業務委託」という手法で受託する事業者向けに、どの様に共通データ仕様を活用するのかについて記載しています。

自治体と包括施設管理業務の委託事業者とがやりとりするコンピュータ用の帳票を共通化します

 包括施設管理業務委託において、自治体と委託先の事業者との間の帳票を共通データ仕様を採用する事により共通化します。勿論、この帳票とはコンピュータ用の帳票の事です。

 現在、自治体と委託先との間のやりとりは、紙やpdf等の帳票でやりとりしている事が多いと思われます。現状、この帳票は事業者や自治体によりバラバラです。

 現在は、帳票を人間が処理する事が多いと思われますが、自治体がこの処理をデジタル化しようと考えると紙やpdfの帳票とは別に内容を電子データ化したコンピュータ用の帳票の提供も求める事になります。この際、コンピュータ用の帳票の仕様がバラバラであると、デジタル化の障害となってしまいます。そこでデジタル化を進めようと考えた場合、この部分のコンピュータ用の帳票を共通化します。

紙やpdfの帳票とコンピュータ用の帳票はよく似ていると記述しましたが、見た目は結構違います。でも、帳票の各項目に登録する用語や数値は基本的に同じです。基本的にと言っている意味は、例えば変換プログラム作って違う内容にすることも技術的には可能と言う意味です。しかし、特別な理由がない限り、変換プログラムを作ることは無駄ですから、多くの場合は同じになります。従って、コンピュータ用の帳票を共通化すると、紙やpdfの帳票に登録している用語や数値も共通化される事になります。

 これは、自治体や再委託先にとって大事です。紙やpdfの帳票に登録する用語や数値が変わらないという事は、いつもの業務が標準化され負荷が軽減したり、業務の正確性がより担保されるなどの効果をもたらします。

帳票を共通化とは具体的にどういう事か

 コンピュータ用の帳票を共通化するとは、具体的にどの様な事なのか、改めて整理します。

■帳票に登録する用語などの共通化

 コンピュータ用の帳票は人間が使う帳票と同じだと説明しました。人間が使う帳票も、各項目に記述する内容にはルールがあります。例えば公共施設の設備に子供がマジックでいたずら書きをしたとします。これを施設の不具合の報告の帳票に書き込む際、色々な書き方が考えられます。例えば、「いたずら書き」、「いたずらがき」、「汚損」、「塗料付着」などなど。これを共通化するのが用語です。用語以外にも、下記の様に色々なルールがありますが、用語以外はFMシステムのエンジニアが知っていれば良く、施設管理の現場が気にする必要があるのは、主に用語です。

 以下、ルールを例示します。

  • 既に説明した用語の定義です。施設管理では、現象・原因・処置などの数種類の用語が定義されています。詳しくは、共通データ仕様の用語をご覧ください
  • 電話番号や住所などの様に、同じ情報であっても表記方法が複数ある場合の表記方法のルールです。例えば、半角英数字(ASCII文字)で記述するか全角で記述するか、数値の場合は小数点以下の桁数などの表記です。例えばデジタル庁の指針では、座標の記述は北緯や東経を小数点以下6桁で記述する事などが指定されています

■帳票のフォーマットの共通化

 帳票のフォーマットです。帳票に何を登録するのか、項目の見出し(項目名)を何にするかなどです。

 帳票は多くの場合プログラムで変換可能ですから、用語の共通化と違い電子データを自治体に提出するまでに共通仕様に変換すれば構いません。データを提出する時期については、自治体との間で調整する必要があります。最も遅いタイミングは、事業者が交替するタイミングです。つまり、次の事業者に渡すために変換する事になります。例えば、交替前にFMシステムからCSVなどでデータを取り出し、CSVから共通データ仕様に変換すればいい事になります。尚、CSVで自治体にデータを渡す場合には、CSVはデータの表現に制約が大きいため、自治体に提出できる情報が少なくなったり、情報を増やそうとするとCSVファイルの数が多くなったりしますので、自治体と事業者の間でよく相談する事が必要です。デジタル庁の推奨モジュールのファイル形式はjson(ジェイソン)であり、データモデルもjsonを前提に記述しています。jsonをCSVに変換する事も可能ですが、一般にCSVに変換するとファイル数が増えてしまいのす。jsonとCSVとの比較はコラムに記述しましたので、興味がある方はご覧ください。

帳票を共通化するメリット

 コンピュータ用の帳票も共通化するメリットは以下の通りです。

■自治体のメリット

  • コンピュータ用の帳票の仕様を策定する必要がありません
  • 紙やpdfで提出される帳票類も、各項目に記述される内容が共通化されます。事業者によっては、web、アプリ、表計算ソフトなどで事業者のFMデータを開示する場合がありますが、それらの項目の内容も共通化されます
  • 委託事業者が交替しても、帳票の形式や内容が変わりません。また、事業者交替時に引継ぎのための各種情報を再提供する手間が軽減されます
  • コンピュータ用の帳票を保存しておけば、ビックデータとして分析に活用できます
  • コンピュータ用の帳票のデータを活用するプログラムが、最小限で済みます。また、他の自治体が既にプログラムを持っていれば、流用する事も可能です
  • 施設カルテなどのデータ収集作業が軽減されます

■委託事業者のメリット

  • 自治体ごとに帳票を変更する必要がありません
  • 複数の自治体の帳票を集めて、ビックデータとして分析に活用できます
  • 事業者の交代時に前任の事業者のデータを活用でき、引継ぎ作業が軽減されます

■再委託先のメリット

  • 委託事業者が交替しても、帳票への登録ルールが変わりません。今までは、例えば事業者により屋内の壁を「内壁」と登録する場合と「壁」と登録する場合があったかもしれません。同様に、施設内の色々な部位の呼び方や不具合の呼び方などが共通化されます

どの帳票を共通化するか

 公共施設に関する帳票と、検査や修繕などの各種作業の報告に関する帳票です。

 公共施設に関する帳票とは、管理対象の施設に関係する、土地・建物・施設・設備に関する情報を登録する帳票群であり、施設管理を行う上で必要な基本情報です。例えば、施設名、所在地、所管課、施設ID、設置されている設備などの情報が含まれています。これらのデータは、施設管理以外にも幅広く活用する事が期待できます。例えば、公共施設以外に観光施設も登録する事で観光MaaSのデータとして活用したり、施設情報に避難所としての情報を追加する事で防災データとして活用したりできます。

 検査や修繕などの作業報告に関する帳票とは、自治体から提出する様に指示されている紙やpdfなどで作成している人間用の帳票をコンピュータ用に変換したものです。これらのデータは施設の不具合を分析する元データとするなどが期待できます。例えば、不具合が多発し始める年数を分析して事前に予防保守をするとか、設備の調達の際、調達価格だけでなくライフサイクルコストを分析するなどの応用が考えられます。これらの情報は事業開始時に自治体から提供されたり、事業者自ら施設を計測するなどにより得られるデータであり、電子データ化するために新たに取得するデータは基本的にありません。

 勿論、自治体の要望や、事業者の付加価値として提供するデータの範囲を拡大する事は何ら問題ありません。また、紙帳票にある項目を全て電子化する必要はありません。例えば、以下の様な項目は電子データ化する必要はないかも知れません。

  • 個人情報: 個人名、個人の資格、個人の郵便番号や住所などは紙帳票上は記載があっても電子データ化する必要はありません
  • サマリ情報: 紙帳票では、詳細な情報だけでなく、それらをまとめた項目がある場合があります。例えば、定期検査の報告の様に項目が多い場合は表紙にサマリ情報を記載する場合があります
  • 転記情報: 他の帳票から転記されている項目。紙の帳票は、読み手の利便性のために、既に管理されている情報を改めて項目として設定している場合があります
  • 自然文による記述: 見解や補足などの中には、電子データ化しても分析に利用する事が難しい項目があります。この様な項目は電子データ化する代わりに、pdf等の文書をリンクしておく方が使いやすいと思われます
  • 手続きに関係する項目: 承認欄など、帳票の手続きに関係する項目は抽出する必要はないと思われます

どうやって帳票を共通化したのか

 実際に自治体に提供する各種帳票や、帳票の項目、項目に設定する用語集などを施設管理事業者様から提供頂き、多目的に使えるコンピュータ用の帳票を策定しました。その過程で、帳票に登録する用語なども共通化しました。

 データ仕様の策定では、仕様を簡略化しすぎると利用できる局面が限定されます。逆に、過度に施設の情報を正確に表現する帳票を作ろうとすると、細かくなりすぎて手間がかかりすぎます。本協議会では実際に使っている各種帳票を元にデータ仕様を策定する事で、実用的なレベルの粗さと細かさのバランスを取っています。

用語の共通化とは

 共通化したコンピュータ用の帳票では、用語も共通化されます。用語とは、帳票に記入する値のことです。例えば、建物の内側の壁は「内壁」と表現しようなどという取り決めです。コンピュータ用の帳票と人間用の帳票では同じ用語を登録するでしょうから、特別な処理をしない限り、人間用の帳票、つまり紙やpdfで提出する帳票に登録する用語も共通化されます。このため、自治体の担当者は紙やpdfで提出された各種レポートに記入されている内容も共通化される事になります。

自治体の役割

 共通データ仕様を活用する上で自治体の役割で最も大事なのは、包括施設管理を委託する事業者にデータ仕様を共通化し、電子データを提出して欲しいという意思を伝える事です。一般的な方法は調達時の仕様書などに記載する方法です。具体的な事例はこちらをご覧ください。仕様書に記載する方法以外にも、事業期間中に事業者と相談しながら共通データ仕様にしていくという自治体などもある様です。

 自治体は業務開始の準備に際して、保有する施設情報や過去の履歴情報を事業者に提供する必要がありますが、それらだけでなく共通データ仕様の効果を最大化するために追加で提供することも検討してください。提供する情報としては例えば以下がありますが、渡す情報の内容や時期は委託する業務の範囲や事業者の管理手法にも依存しますので、具体的には各事業者とご相談下さい。

提供情報期待する効果
敷地の情報 必須情報は住所と不動産IDです。不動産IDは登記していないと付番されませんので、登記していない場合は登記していない旨を伝えます。不動産IDは国土交通省が各種IDに活用する様に推奨しているため、もし登記していればid等に活用したいためです。
 更に、施設カルテを作成するなど施設の情報の整理を委託したい場合は、防火地域、用途地域、建ぺい率、容積率、面積、自治体による所有の有無、代表点の座標などの各種情報も提供する事ができれば、作業の効率化に繋がると思われます
建築物の情報 建築物としては、「○○小学校」の様な施設全体に関するものと、「体育館」「校舎」など構成する棟に関するものの2種類があります。
 施設全体に対する情報で、必須のものは名称と不動産IDです。建物の名称は、正式な名称とカナ表記が必要です。不動産IDは登記していないと付番されませんので、登記していない場合は登記していない旨を伝えます。不動産IDは国土交通省が各種IDに活用する様に推奨しているため、もし登記していればid等に活用したいためです。
 棟に関する情報としては、各種図面があげられます。施設カルテを作成するなど施設の情報の整理を委託したい場合は、高さ、地上階、地下階、建築面積、延べ床面積、構造(鉄骨造など)、竣工日などの各種情報も提供する事ができれば、作業の効率化に繋がると思われます。また、12条点検などを委託する場合にはフロア毎の利用目的毎の面積なども伝える必要があります。地域によっては、12条点検の報告書に「塔屋」の階数を記載する場合があります。それらについても、事業者とご相談ください。
 もし可能であれば、屋上、壁、床、天井面等の仕上げが分かる情報も提供すると効率化に繋がると思われます。
施設の機能情報 施設の機能の情報としては、必須な情報は名称と施設IDと連絡先です。名称と施設IDが必要なのは、施設が建築物の一部に入居している場合、建築物の名称と施設の名称が異なるためです。
施設や建築物の通称 庁内で使われている名称や、住民が普段使っている呼称を提供する事で、職員との連携やコールセンターの満足度向上を期待できます。
施設ID 庁内で組織変更があっても変わらないIDを持っている場合、そのIDを事業者にも使ってもらう事で庁内業務との整合性を期待できます
施設内外の呼称 例えば小学校の棟の呼称やグランドの呼称です。グランドは他にも運動場、校庭など色々な呼び方が考えられますが、いつも使っている呼称を事業者も使っていると何かと便利です。その際に、何らかの定義があれば、それも提供します。定義とは例えば校庭の西半分は野球場と呼び、東半分はグランドと呼んでいるなどです。この例だけでなく、駐車場、フロア、部屋、施設の部位、設備などに呼称があれば提供します。呼称としては、「正面出入口」「中央階段」「図書室」「第二会議室」「中央駐車場」など多くの種類があります。学校以外にも公営住宅であれば「1号棟」「2号棟」などの呼称があります。
 これらの呼称の情報は防災や観光などのアプリでも必要な情報ですので、電子化しておくと他の業務にとっても有意義です。
部門番号 所管部門の名称は時々変更されますので、もし変更が少ない部門番号の様なものがあれば提供します。これにより、自治体にとっても蓄積されたデータを集計する作業が楽になります。事業者にとっても、データベースを再作成する手間が減ります
修繕履歴 建築物や設備などの修繕の履歴情報です