Column (No. 5)

[付録] デジタル化の階段

 デジタル化のお話をしている時に、前提としているシステムが違うなぁと感じる場合があります。そこで、ちょっと整理してみます。整理は、アナログ時代から記述して、差分がなるべくわかる様にしたいと思います。以下は筆者の記憶によるものなので、皆様と年代が合わなかったり、順番が違ったりするかも知れませんが、そこはご容赦下さい。

■紙とハンコとFaxと

 1980年前後にはオフィスにPCはありませんでした。一部にはメインフレームと接続されているワークステーションが設置されている場合もありましたが、それらの殆どは業務ごとの専用端末であり、文字通り「サイロ」なシステムでした。サイロなシステム間が接続されている事は稀で、離れた距離の情報伝達は電話かFaxで行われていました。

 その後PCが普及し始めると紙がExcel等の表計算ソフトになり、表計算ソフトで見た目美しい帳票を作り、それを印刷してFaxして提出するなどの光景が見られるようになりましたが、この段階は「紙とハンコとFaxと」と本質的に何も変わりません。この形態はまだ官公庁中心に残存していて、コロナ禍の初期に保健所や厚生省がFaxでやり取りしていると聞いて多くの国民が驚いたのは記憶に新しいところです(直ぐに改善されたとも記憶しています)。

■Faxからネットワークへ

 「紙とハンコとFaxと」の問題は、生産性が上がらない事でした。結局、Faxやシステムのこっちと向こうに担当者が居て、人力でデータ処理する訳ですから、生産性への寄与は限られていました。

 1990年台にはネットワークが爆発的に進歩します。これにより、本社と支社の間や、中央政府と都道府県、都道府県と市区町村などもオンラインで結ばれる形態が広く普及します。例えば、支社の専用端末でデータ登録の担当者が本社のシステムに情報登録し、本社のスタッフがそれを処理するなどの形態です。この段階ではシステムがある程度のデータ処理する事で、本社スタッフの生産性を上げる事が可能となりました。一方、データの登録は一旦帳票に記入して、その帳票を担当者が専用端末で登録する形態が多く、生産性としてはFaxと大差ないものでした。

 この形態は現在でも幅広く活用されています。例えば政府のプッシュ型支援と物資調達・輸送調整等支援システムでは避難所のニーズをいち早く市町村に伝え、市町村のニーズをいち早く都道府県に伝え、それを更にいち早く政府に伝える事が可能となり、例えば能登半島の震災時には力を発揮したと聞いています。勿論、専用端末ではなくPCから登録するのだと思いますが、デジタル化の段階としてはFaxがネットワークに進化したレベルかなと思います。

■PCとイントラネットへ

 「Faxからネットワークへ」でデータを受け取る側の生産性が向上し始めましたが、データを登録する側の生産性は余り変わりません。企業でも行政でも業務に携わる人数はデータを登録する側の方が多いですから、データを登録する側の進化が待たれた訳です。

 1990年台後半にインタネットが普及すると共に企業内のネットワークもイントラネットと称してPCと共に普及していきます。これにより、端末が個々の社員や職員の身近に配置される様になりました。そして、データの登録も彼ら彼女らが直接PCを通じて行うようになります。一旦帳票に記録する必要がありませんし、過去の登録内容を引用してデータ登録するなども可能となり、データ登録の生産性は上がりました。また、部門で情報を取りまとめて、その取りまとめた結果を報告するなどの形態も少なくなり、途中で情報伝達に関わる人数や階層も少なくなっていきました。この点でも生産性が上がっていったと思われます。

 経理的な精算処理などの定型業務では、この形態は現在もかなり一般的な形態として残っていると思います。

■インタネットへ

 「PCとイントラネットへ」までは定型作業の生産性の向上が主眼でした。経済がサービス化すると共に、定型作業だけでなく頭を使ったオリジナリティーが必要な業務が重要になってきました。そこで各社はKM(Knowledge Management)などの知恵の発揮を支援するシステムの利用が進んできました。また、メールや社内ポータルなどの部いいこ門を超えた人と人との連携を高度化するアプリケーションが表れ、上意下達型の組織運営から横で連携する組織運営に寄与するシステムやサービスも増えてきました。この動きは現在も続いており、チャットやweb会議などもごく一般的に使われるようになってきました。これに伴い、多人数を集めて多くの議題を一括して議論する会議から、臨機応変に必要な人数だけを集めて短時間開催する会議に移行する動きもみられる様になってきました。

 システムとしては、各種ITサービスをオンプレミスで提供する形態からクラウドからサービスとして提供する形態が徐々に浸透してきました。これにより、ひとつのシステムあたり利用者数が桁違いに増え、より低価格で高度なサービスの利用が可能となりました。利用者は複数のサービスをインテグレーションして利用する形態となり、OpenAPIの活用などAPIの共通化が進展してきました。

 この形態は、前記の「PCとイントラネットへ」と共に多くの団体にとって一般的な形態だと思います。

■IoTへ

 「インタネットへ」の時代になってAPIの共通化などが進んできましたが、次の様な課題はまだ残されました。

  • データ登録の人的作業
    相変わらずデータ登録は人間の作業です。先ほどのプッシュ型支援と物資調達・輸送調整等支援システムを見ても、避難所内ののデータ収集は避難所に派遣された職員などの人的な作業となります。また、それらのデータは市区町村で人手でとりまとめ、それらの取りまとめた結果を都道府県に伝え、都道府県が更に政府に伝える仕組みです。何とかできれば何とかしたいものです
  • 低い情報活用
    APIの共通化は進みつつありますが、そのAPI上でやりとりするデータがバラバラでどこにあるのかよく分からないため、折角のデータが活用されません。また、データも汎用性に欠け実用的ではない場合も多い様です
  • 既存情報のデジタル化
    建物やインフラなどに関する情報はデジタル化が進展する前に作られたものが多く、時には青焼きなどの旧式のものも沢山現存しています。これらは価値ある情報資産ですが、残念ながらとても活用しやすいとは言えません

これらを解決するにはどうすれば良いでしょうか。思いつくまま列挙してみましょう。

  • データ発生源でデジタル化
    これは狭義のIoTですね。人が測定して端末からデータ登録するのではなく、必要なところにセンサを設置したり既存の設備などからデータを取り出したりします。例えば照明の人感センサで部屋の在室人数を把握したり、空調のCO2センサで換気状況を把握したりできます。また、データ収集が24時間365日可能となり、新たな価値を見出す事も可能となります
  • データの汎用化
    本協議会では「多目的データモデル」と記載していますが、同じ情報であってもデータの持ち方を工夫する汎用性が高まります。これまでの帳票や伝票などは人間が見る事が前提となっていましたから、どうしてもその帳票一枚を見ればわかる様にせざるを得ませんでした。例えば領収書(レシート)に記載されているのは短縮された商品名ですが、代わりに製造番号やJANコードを記載した方がどの商品なのかを正確に把握できる筈ですが、人間にとっては意味のない文字の羅列はとても面倒なので現実的ではありませんでした。しかし、人間ではなくコンピュータが処理する事を前提とするとこのような制約は取り払われてしまいます。例えばオープンデータではLOD (Linked Open Data)という考え方があります。これは、情報を余計に集計したり加工したりせず、モノやコトにデータを分けてオープンデータを公開するやり方です。この方法は汎用性が増すだけでなく、余計な集計が不要となるためにデータの出し手の作業も簡単になります。これは、モノやコトとモノやコトを担当する部門とが対応が取れている事が多いためです。例えば本共通データ仕様でいうと、建物の担当とその中に入居している施設とでは情報を把握している部門が異なる事が多いです。そのため、別々のモノとしてデータを公開する方が取りまとめ役が不要となりデータのオープン化が楽になります
  • データ仕様の共通化
    データ仕様にはデータモデルとデータとして登録する用語や数値の約束事がありますが、特に用語を共通化する事で別々のデータを名寄せする事が可能となり、データの価値が高まります。データモデルは多少違っていても変換する事が可能な場合が多いですが、最初から共通化してあると便利ですよね。尚、データ仕様の共通化は次のみっつの軸で考える必要があります。①一つ目はデータの出し手の共通化です。公共施設の管理業務を例にすると、色々な事業者から自治体等に報告書が提出される際、報告書の記載内容を事業者間で共通化するイメージです。②二つ目はデータの受け取り側の共通化です。公共施設の管理業務の例では、自治体間の共通化を意味します。③最後は業務間の共通化です。公共施設を例にとると、公共施設は管理業務だけでなく、住民サービス、災害発生時の避難所、観光など多くの業務と関係します。これらの業務間で共通化する必要があります
  • 各種システムのネットワーキング
    エリア・データ連携基盤(都市OS)を使って、各種データ源となるシステムを繋ぐことで、データをイチイチ集めてくることなしに利用者は多様なデータの活用が可能となります。また、データの鮮度も必要であればリアルタイムに近い状態に保つことも可能となります
  • カタログの整備
    カタログとはどの様なデータがどこにあるのかを示す一覧の様な特別なシステムです。現在はデータセットと呼ばれるデータの塊りを一括してやり取りする際のカタログの仕様についての検討は進んでいるものの、エリア・データ連携基盤の様な一件いっけんやりとりする際の仕様はこれからという状況です。今後、検討が進んでいくと期待されます
  • データ集約作業の排除
    現在は多段階でデータをとりまとめて集計したデータを受け渡す業務がよく見られます。コンピュータも低価格・高速化しましたので、別にデータを集約する必要性は低く、生のデータを利用時に個々に集計して利用すれば済みます。データの集計や集約はコストがかかるだけでなく、情報が失われてしまい汎用性が低下します。汎用性は生データが最も高いのでそのまま利用できれば最も生産性が高い業務が可能となります