施設管理における共通データ仕様の活用という観点では包括施設管理とPFIはほとんど同じです。つまり、関係する企業と自治体間でシステムを活用して情報共有する事となります。そこでここでは、包括施設管理とPFIとの差異に焦点を当てて記載します。この説明ではBTO (Build-Transfer-Operate)方式のPFIを前提に記載します。その他の方式の場合は適宜読み替えて下さい。

PFIにおける施設管理の特徴
■包括施設管理との共通点
施設管理時のデータ共有という視点では、複数の事業者や自治体と密に情報共有する事が効果的である点は包括施設管理と変わりません。FMシステムは構成企業の一社(多くは代表企業)が準備し、施設管理の観点では施設管理担当の事業者が日々の活動をデータ登録しつつ、代表企業や自治体がそれを参照しつつ業務を遂行する事になります。施設管理を担当する事業者は業務の一部を再委託する事もあります。この点でも包括施設管理と同様です。FMシステムを通じて不具合や修繕の状況はリアルタイムに関係者と共有されます。自治体職員は、複数の事業を担当していますから、共通データ仕様を各事業に採用する事で、事業者が異なっても用語などのデータ仕様が揃った電子データを得る事が可能となります。
PFI事業には年限があり、ある時点で終了します。その終了時点では施設管理に必要な情報は後任の施設管理事業者に引き継がれます。その際には共通データ仕様の形式で電子データを受け渡すことが効果的であると考えます。勿論、個別に調整して後任事業者が求める形式などで提供する事を妨げるものではありません。
尚、自治体によっては施設情報をエリアデータ連携基盤に登録する事を求められるかもしれません。その際にも共通データ仕様の形式で作成した電子データをそのまま登録する事が可能となります。
■包括施設管理の説明との相違点
大きく異なる点の一つ目は、施設や設備の電子データが構成企業内で最新の形で得られる可能性がある事です。施工時に調整が入り、設計時と竣工時に施設や設備が異なる可能性がありますが、施工事業者には施設や設備の情報の最新化を求めておく必要があります。例えば、設備の機種が変更になったなどです。また、設置日などの情報も必要となります。一方、設計・施工と施設管理では求められるLoD1が全く異なりますので、必要以上に細かく情報を更新する必要はありません。例えば、天井に空調の室内機を設置した場合、設計では正確な場所を指定する必要がありますが、施設管理では、人間の見ればわかる程度の誤差は問題になりません。

大きく異なる点の二つ目は、自治体の職員にとって入手する電子データが施設毎にバラバラである事です。共通データ仕様では用語だけでなく、電子データの形式(データモデル)も公開しています。従って、共通データ仕様のデータ形式(データモデル)で電子データを入手すれば良いのですが、後で表計算ソフトで読み込むには手間がかかる2ので、CSV等の表形式のデータで電子データの提出を求める場合が多いようです。この場合、表の項目名などの指定は職員が各事業者に対して行う必要があります。この際に、各項目に何をどの様な形式で登録すべきなのか、登録する情報にはどの様な制約があるのかなどは、データ形式が参考になると思われます。

自治体の役割
■調達時の考慮事項
共通データ仕様を活用する上で自治体の役割で最も大事なのは、PFIを遂行する各事業者に「共通データ仕様」を活用して電子データを提出して欲しいという意思を伝える事です。ここで言う電子データは、PCの画面やスマホ等に表示する情報、PDF等の表示用電子データ、CSV等の表示用電子データなど全ての自治体との電子的な情報共有を指します。一般的な方法は調達時の実施方針などに記載する方法です。電子化する方針のみ記載している場合は、データ仕様の調整時に共通データ仕様の活用を伝えます。もし事業期間中であれば、事業者と相談しながら共通データ仕様にしていくという方法もあります。
■施設情報の提供
包括施設管理との大きな違いは、自治体は業務開始の準備に際して事業者に渡すべき施設情報が少ない事です。設計・施工時の情報は事業者が持っていますので、施設の管理上の通番や各フロアや部屋、敷地内の場所の名称を伝える事になります。例えば、以下の情報が必要となります。
| 期待する効果 | |
|---|---|
| 施設の情報 | 施設全体に対する情報で、必須のものは名称と自治体内で附番した通番です。建物の名称は、正式な名称とカナ表記が必要です。通番は一般的な言葉なので、施設管理のための通番を共通データ仕様では「管理通番」と呼んでいます。 |
| 敷地の情報 | 施設カルテを作成するなど施設の情報の整理を委託したい場合は、防火地域、用途地域、建ぺい率、容積率、面積、自治体による所有の有無、代表点の座標などの各種情報も提供する事ができれば、作業の効率化に繋がると思われます |
| 建物の情報 | 必須のものは名称です。施設の名称と建物の名称は同じでも構いません。正式な名称とカナ表記が必要です。 |
| テナント施設の機能情報 | ここで言うテナント施設とは、建物の中に入居している個々のテナントを指します。テナント施設の情報としては、名称、入居位置(フロア名など)、施設ID、および連絡先です。名称が必要なのは、施設が建築物の一部に入居している場合、建築物の名称と施設の名称が異なるためです。 この施設情報は、施設管理を行ううえでも不具合発生時の連絡などに必要な情報すが、これに加え多様な活用も可能です。例えば、自治体標準オープンデータセットのAED設置位置一覧やアクセスポイント一覧では、より細かい情報が必要なため設置している施設の情報が必要となります。 |
| 施設や建築物の通称 | 庁内で使われている名称や、住民が普段使っている呼称を提供する事で、職員との連携やコールセンターの満足度向上を期待できます。特に、正式名称が余り知られていない場合は通称は必須だと思われます。 |
| 施設内外の呼称 | 例えば小学校であれば棟やフロアの呼称やグランドの呼称です。グランドは他にも運動場、校庭など色々な呼び方が考えられますが、いつも使っている呼称を事業者も使っていると何かと便利です。その際に、何らかの定義があれば、それも提供します。定義とは例えば校庭の西半分は野球場と呼び、東半分はグランドと呼んでいるなどです。この例だけでなく、駐車場、フロア、部屋、施設の部位、設備などに呼称があれば提供します。呼称としては、「正面出入口」「中央階段」「図書室」「第二会議室」「中央駐車場」など多くの種類があります。学校以外にも公営住宅であれば「1号棟」「2号棟」などの呼称があります。 これらの呼称の情報は防災や観光などのアプリでも必要な情報ですので、電子化しておくと他の業務にとっても有意義です。 |
| 部門番号 | 所管部門の名称は時々変更されますので、もし変更が少ない部門番号の様なものがあれば提供します。”ABC123″の様な文字列でも構いません。これにより、自治体にとっても蓄積されたデータを集計する作業が楽になります。 |
■共通データ仕様の形式以外の形式の指定
既に記載した様に、自治体によってはCSV等の独自の形式での電子データの提出を求める場合があります。その場合は、複数の事業者間のデータ仕様が異なると後で統合するなどの作業が複雑になるので、項目名などの共通化を図ると共に、項目に入れる用語や数値のルールも共通化しておくことが望ましいです。この共通化は自治体の役割になりますが、共通データ仕様としては各項目にCSV形式でも使える様に日本語の項目名として「呼称」を参考記載してあります。また、各項目に登録する用語や数値を共通データ仕様と同じくすると良いでしょう。例えば標準に従うと施設の名称の項目名は”name”ですが、共通データ仕様の「施設 (Facility)」を見るとその項目の呼称として”施設名”を記載してあります。呼称はこれでなくてはダメというものではありませんが、活用すると項目名の策定が楽になりますし、後々共通データ仕様の形式に変換する際も簡単です。
代表企業の役割
■FMシステムの選定と契約
構成企業内で多団体間で情報共有可能なFMシステムを調達できない場合、外部からFMシステムを調達します。本ホームページでも、情報宝箱の「クラウドサービ」で本協議会に参加頂いている団体のFMシステムを紹介していますので参考にして下さい。自社システムとFMシステムとを連携する事も検討してください。例えば、施設や設備の管理担当企業がFMシステムに登録した情報を自社システムにも反映する様な仕組みの構築です。
■FMシステムの初期設定
初期設定の作業自体はFMシステムのベンダが担当できる場合もありますが、設定すべき情報は代表企業が用意する必要があります。尚、用意する情報のフォーマットをベンダが指定する場合もありますし、後述するプルダウンメニューの設定作業はベンダが実施する場合がありますので、進め方についてはベンダに事前にご確認下さい。特に、ベンダが担当する範囲についてはベンダ毎にポリシーが異なりますので、齟齬が無い様に契約前によく確認しておきましょう。
- 各種名称や管理上の通番などの確認
多くの自治体は施設ごとに名称とは別に通番を付けています。自治体に提出した電子データは職員が他の施設の情報とひとつにまとめる際などに必要となるので、自治体に電子データを提出する際にはこの通番を付ける事が望ましいです。また、部門などにも通番があるので、関係する部門についてはそれらの通番も確認しておきましょう。共通データ仕様では、それらの通番を「管理通番」「部門番号」などと表現しています。
また、フロアや部屋の名称も確認しておきましょう。これらの名称は施設管理以外の業務でも使われるため、いつも呼んでいる名称であることが望ましいです。施設内の各部分の名称は3階層”以下で表現します。例えば○○小学校であれば、”校舎”-“1F”-“音楽室”や”屋外”-“グランド”などとなります。これらの名称を共通データ仕様では「場所」と表現し、各階層は「場所大分類」「場所中分類」「場所小分類」と表現しています。 - アクセスできる範囲の策定
FMシステムには施設や設備の情報だけでなく予算の状況なども登録されている場合があります。これらの各情報はだれが登録可能で、誰が参照可能なのか決めておく必要があります。自治体の考え方やFMシステムの機能にも依存しますので、事前によく相談して明確に定義しておくことが必要です。 - 用語の不足の確認
共通データ仕様の用語に不足が無いが確認します。特に、施設の部位や設備の種類を表す「施設の部位 (BuildingComponent)」「不具合現象 (Phenomenon)」および「不具合原因 (Cause)」は重要です。これらの用語は種類が多いので予め確認しておくと良いでしょう。まずは施設の部位を確認し、その部位や設備に関係する不具合現象や原因が足りているのかなどを確認します。不足が見つかった場合はPPP共通データ仕様協議会の事務局に連絡して追加して貰います。 - 施設・設備の情報
施工事業者や設備担当の事業者から情報を提供してもらう必要があります。また、各フロアや部屋の名前など、設計時には決まっていない可能性がある情報もありますので、ベンダに必要情報を確認しておく必要があります。尚、施設や設備の種類など共通データ仕様で用語として定義してある項目がありますので、どの段階で誰が共通データ仕様の用語に合わせるのか事前に調整しておくと良いでしょう。
設計施工時にBIMを活用している場合、必要な情報の大部分はBIMから抽出できる可能性があります。ベンダによっては、この作業も担当可能な場合があります。 - プルダウンメニューの登録
施設の運用が始まってから使う用語、例えば不具合の現象や原因などばプルダウンメニューに登録しておき、作業者が間違って登録してしまわない様にしておく必要があります。尚、前項の施設や設備関連の情報でもFMシステムによってはメニューから選ぶ操作になっている場合があります。その場合は施設・設備の情報を登録する前にプルダウンメニューを登録しておく必要があります。共通データ仕様はwebによる仕様公開と共に、マイクロソフト社のExcelファイルでも用語一覧を提供しています。これらのファイルを加工してFMシステムの入力形式に合わせてプルダウンメニューに登録します。繰り返しですが、この登録作業はFMシステムのベンダによってはベンダ側の作業として定義している場合がありますので、確認しておきましょう。 - 操作法の修得
施設や設備の管理や修繕を行う担当者がFMシステムに登録し、その内容を必要な構成企業が確認し、最終的には自治体職員が確認します。また、FMシステムからCSVなどの電子データを取り出す事も必要になるかもしれません。それらの操作法について、業務が始まる前に講習会等で周知しておく必要があります。また、担当者は入れ替わりますので、適時講習会を再開催したり、操作手順書を配布しておくと良いでしょう。尚、講習会についてはベンダの協力を得られる場合があります。また、問い合わせの窓口を設置しているベンダもあります。その点についても事前に確認しておきましょう。
ここまで、共通データ仕様に関係する部分について記述してきましたが、FMシステムにはここまで記述した以外に例えばワークフローなどの多様な機能があります。折角導入するFMシステムですから、それらの機能を活用してより効率的な施設管理を実現してください。それらの機能についてもベンダとよく相談しておくことが望ましいと考えます。



