包括施設管理における使い方 (1/6)

電子データの提供形態と時期

 電子データをお客様 (自治体) にお渡しする形態は色々あると思いますが、代表的な形態としては以下の3っつの形態を想定しています。どの形態にするのかは、お客様が電子データをどう使いたいのか、事業者がどの程度システム的に対応可能なのかに依存しますので、最初に取り決めておく必要があります。

csvやExcelで渡す

 一般的なFMシステムではcsvファイルやExcelファイルでデータを出力する機能を備えている場合が多い様です。この機能を利用して、csvやExcelで電子データを提出する形態です。お客様はcsvやExcelで分析や集計を行うことができます。但し、csvやExcelのデータは表形式なので、提供できるデータには制約があります。また、提供するcsvの種類が多くなってしまうという欠点があります。
 この形態ても用語は業務開始当初から適用する必要があります。また、次の事業者に対しては、形式も共通仕様に合わせて変換して渡す必要があります。

 この形態はケーススタディの1と2でも取り上げます。

共通データ仕様の形式で渡す

 共通データ仕様はデジタル庁が推奨するエリア・データ連携基盤の仕様に合わせてあります。FMシステムが共通データ仕様に合致する電子データで提供する事で、csvやExcelでは表現できない情報も提供可能となります。例えば土地の形状をポリゴン(座標の列)で表現している場合などがあります。
 利用者は提供された電子データから必要な部分を取り出して分析や集計を行います。
 次の事業者には、提供した電子データをそのまま渡す事が可能です。

データ連携基盤に直接登録

この形態はエリア・データ連携基盤などのシステムの実装が前提となります。報告書の提供と同時にシステムに電子データを登録します。共通データ仕様の報告書 (Report) のデータには、pdfなどの報告書の格納場所も登録可能ですので、報告書の提出自体を電子データで行う事もできます。
 利用者はエリア・データ連携基盤が提供する機能(座標や距離で抽出するなど)を利用できるだけでなく、施設管理以外の業務にもそのまま利用可能となります。

 前記の電子データの提供形態にも関係しますが、電子データをお客様にお渡しする時期についても幾つかの形態があります。代表的な提供時期としては以下の3っつを想定しています。

契約終了時に一括して電子データを提供

 包括施設管理業務委託の契約期間の終了時に一括して電子データを渡す形態です。従って、電子データの目的は次の事業者への引継ぎの効率化となります。
 この場合も、用語は業務開始当初から適用する必要があります。書類による報告は随時行われますし、事業者によってはお客様 (自治体) に端末やお客様専用のWebサイトを提供する場合がありますので、お客様の担当者は電子データが手許に無くても、共通データ仕様の用語に準拠した情報が得られます。

定期的に電子データを提供

 例えば月末や年末などに電子データをまとめて提供する形態です。電子データには、公共施設の基本情報と不具合の情報が含まれますが、基本情報の方は初回から一括して電子データ化して渡す必要があります。
 この場合も、用語は業務開始当初から適用する必要があります。
 自治体側のメリットは最新の施設情報が手に入りますから、電子データを施設計画や分析に活用できる点です。

報告書と同時に電子データを提供

 この形態はファイルサーバやエリア・データ連携基盤などのシステムの実装が前提となります。報告書の提供と同時にシステムに電子データを登録します。
 お客様が電子データを他の業務にも活用しようとする場合には、最新の施設の情報が共有されるので、メリットが大きいと思われます。一方、エリア・データ連携基盤を実装する必要があります。

どの形態であっても、事前検討が必要です。以下、事前検討について記述します。

事前検討 — 管理単位の検討

 施設管理から見ると、本共通データ仕様の「建物 (Building) 」というデータモデル (以下、Building) が管理の中心となります。このBuildingは公営住宅や学校の様に複数の棟を含む事が可能である様に策定してあります。「施設 (Facility) 」というデータモデル (以下、Facility) は建物に入居する施設を表します。つまり、建物には施設が複数入居できる様になっています。例えば、ひとつの複合施設に小学校と児童クラブと備蓄倉庫が入居している様な場合は複合施設がBuildingに対応し、小学校と児童クラブと備蓄倉庫はそれぞれ一つのFacilityとなります。日本語の「施設」はとても曖昧な単語で、ショッピングモールの様な多数の建築物を含むものを「大型複合施設」と呼んだり、ビルの一角にあるクリニックを「医療施設」と呼んだりするので、注意が必要です。

 各自治体が施設管理を行う単位は、本データ仕様とは関わりなく、管理業務に合わせて策定していると思われますので、本共通データ仕様における建物や施設の単位と施設管理を行う単位の関係を予め明確にしておく必要があります。

 以下、幾つかのパターンに分けて整理したいと思います。ひとつの自治体内でも、色々なパターンが混在していると思いますので、施設ごとに確認しておく必要があります。

■建物単位で管理

 建物が一棟で構成され建物全体がひとつの施設で占有されている場合で、自治体としてもひとつの建物と敷地をひとつの管理対象とする基本的なパターンです。その建物が特定建築物の場合の12条点検の報告もこの建物の単位で報告されていると思われます。

 この場合は、本共通データ仕様に特に考慮するべき点はありません。「建物」と「施設」を一件ずつ登録する事になります。敷地は「土地(Land)」と言うデータモデルで登録します。敷地が複数の土地に分かれている場合、全ての「土地」を登録する事も出来ます。その場合、建物の住所に一致する土地を登録します。複数の土地をそれぞれ登録したい場合は建物には複数の土地を登録できるようになっていますから、一つ目の土地に建物の住所に一致する土地を登録します。

 建物が複数の棟で構成されている場合は建物全体を表すBuildingと棟を表すBuildingの両方の登録が可能です。これは、12条点検などでは、棟毎に記載する項目があるためです。例えば右図の様に2棟ある建物の場合は合計3件のBuildingを登録します。

 但し、棟毎の情報を登録する必要が無い場合、1件のBuildingで済ます事もデータモデルとしては可能ですので、どちらにするか検討が必要です。

■建物を複数の施設に分割して管理

 ひとつの建物内に複数の施設があり、主管部門が一つの建物内で複数あるケースです。植栽や駐車場などの共用部分や受電設備などの共用設備含めてどちらに属するのか決めておく必要がありますので、可能であれば建物単位にまとめて管理する事が望ましいですが、共通データ仕様上は建物と施設の両方に施設IDを振る事は可能としてあります。また、建物の部位や設備も建物単位で登録する事も、施設単位で登録する事も可能としてあります。

 右図の場合、施設管理で使う施設IDは100番で、利用実績の集計などは101番と102番で分けて集計するなどの使い方が可能です。

■建物を棟単位に分割して管理

 建物や施設が複数の棟が構成させる場合で、棟ごとに分けて施設管理を行うケースです。このケースについては現在の共通データモデルでは表現できません。もし、この様な管理が必要になった場合は、データモデルの拡張を事務局に要求してください。

■建物の一部だけが管理対象の場合

 施設の一部に施設が入居している場合も表現できます。例えば、民間の建物に公共施設が入居している場合などを想定しています。建物の管理は貸し手の民間企業が行うと思われますが、例えば施設カルテの作成の際などに必要となると考えて、このケースも表現できる様にしてあります。

 この場合もBuildingとLandの登録は必要です。これは、住所やピル名が必要となるためです。

補足説明

■施設の定義について

 政府がオープンデータのデータモデルとして定めている「自治体標準オープンデータセット」では、医療機関、観光施設、介護サービス事業所、子育て施設など、建物ではなく、サービスを提供する機能を表現しています。本共通データモデルでは、自治体標準オープンデータセットを踏襲し、サービスを提供する機能に対応して施設を定義しています。また、近年は民間のビルの一部に自治体のサービス窓口を設置する事の多いため、この観点でも建物と施設を区別してデータモデルを分けてあります。