事例紹介: DXを求める調達仕様

デジタル化を要求する包括施設管理の調達仕様

 包括施設管理業務委託の公募型プロポーザル実施時に仕様書案には共通データ仕様を明記していないものの、デジタル化を要求している仕様を紹介します。記載は公開日の逆順になっており、最新の事例が一番上に掲載されています。尚、各事例に記載した説明は事務局で執筆したものであり、協議会で合意したものではありません。もし、誤認や記述漏れなどがありましたら、コメントを頂ければ助かりす。

■東京都渋谷区

 2025-12-08に「渋谷区学校施設包括管理業務委託業者選定に関する公募型プロポーザルを実施します」が公開され、システムの導入や電子データの提供を求める内容の記述がありました。

 「渋谷区学校施設包括管理業務委託仕様書(案)」の特徴ある記載は以下となっています。

第1章 総則

7 一般事項

(4)本業務の履行確認は、原則としてデータ提出とする。
(8)受託者が業務上、作成した書類、電子データ等は本区に帰属する。

14 情報管理体制
(1)受託者は、施設ごとの維持管理(清掃・点検等)状況、故障状況及び補修内容等の履行結果に関するデータをシステムに登録するとともに、本区と情報共有できるようにすること。システムの詳細については、受託者の提案を踏まえて、本区と協議の上、決定するものとする。
(3)業務を実施するために必要なデーターサーバー管理費等は受託者の負担とする。
(4)データ管理について疑義が生じた場合は、本区と受託者が協議の上、定めること。

16 区内事業者の活用及び支援
(1)受託者は、区内事業者を積極的に活用するよう努めること。
(2)契約・請求事務や立ち合い業務等の手続きを簡略化するとともに、区内事業者に効率的な修繕方法等のノウハウ提供の機会を設けること。
(3)区内事業者からの問合せ・相談への対応に加え、法律や制度改正に関する情報提供や講習会等の機会を設けること。

22 業務引継
(1)受託者は、本業務を終了する場合(契約解除により契約が終了した場合を含む。以下同じ。)は、次期委託契約の受託者を施設点検等に同行させる等、円滑な引継ぎに協力するものとする。
(2)受託者は、本業務を終了する場合は、「第1章14情報管理体制」に基づき蓄積した管理データを電子データとして、本区へ提供するものとする。なお、提供する各種データの詳細な形式については、本区と受託者との間で協議の上、決定するものとする。

 「渋谷区学校施設包括管理業務委託 公募型プロポーザル募集要項」の特徴ある記載は以下となっています。

(2)評価項目・評価基準
① 一次審査

評価項目評価の内容・視点配点
4システム導入・情報管理情報管理・ 共有及びシステム活用情報共有の円滑化及び業務効率化につながる施設管理のシステムの提案があるか。
・受託者が変更となっても業務は円滑に引継ぎできる内容であるか。
・学校施設の教職員等及び本区との情報共有のための提案は効果的か。
40/350
5経済波及効
果・地域活性化
⑵区内事業者の支援・契約・請求事務や立ち合い業務等の事務手続きの簡略化が期待できるか。
・区内事業者の技術力やノウハウ、経営基盤等の向上に資することが期待できるか
20/350

 尚、実施要領などの全文については、以下をご覧ください(PFI協会会員専用のページです)。

  https://pfikyokai.or.jp/pfi-data/houkatsu/data/01/132/index.html

 特徴は、「業務上作成した電子データは本区に帰属する」と明記してある事で、単に報告書の電子データを提供するだけでなく、業務の基盤となる施設情報・設備情報なども本区の帰属と明示してある事、引継ぎ時のデータの形式は協議によって定めるとしている事かと重られます。共通データ仕様では引継ぎにも使えるデータの形式を公開していますが、実際の引継ぎは将来の話であり、共通データ仕様が前提としているデジタル庁の方針が更新される、或いは後継事業者が別の形式を希望しているなどの状況が考えられます。協議して定める事を義務化しているため、将来のリスクを軽減できると思われます。また、地元事業者の業務改善につながる提案を求めている事も特徴です。

■広島県広島市

 2025-08-13に「【公募型プロポーザル】広島市立保育園等施設包括管理業務」が公開され、電子データの提供を求める内容の記述がありました。

 「広島市立保育園等施設包括管理業務仕様書(案)」の特徴ある記載は以下となっています。

第1章 総則

14 市内事業者の活用及び支援

⑷ 市内事業者の業務の効率化が図れるよう、契約・請求事務や立ち合い業務等の事務手続きを簡略化すること。
⑸ 本業務の実施に関して市内事業者からの問合せや相談等に対応すること。また、法律や制度改正に伴う情報提供及び講習会等を通じて効率的な修繕方法等のノウハウを提供する機会を設けること。

16 契約終了後の業務の引継ぎ

⑵ 受託者は、本契約が終了したときは、本業務において蓄積した管理データを電子データとして本市へ提供すること。
 なお、提供する管理データについては、次の例を参考に、契約終了時に本市と協議し提供する管理データの内容、形式を決定すること。

管理データ内容形式
修繕履歴、保守点検等履歴、不具合状況等データベースCSVファイル
Excel ファイル 等
各種計画書、報告書Excel ファイル
Word ファイル 等
保守点検委託等発注仕様書Excel ファイル等
工事図面Jww ファイル
PDF ファイル 等
各種写真Jpg ファイル
bmp ファイル 等
納入仕様書PDF ファイル等
打合せ記録Excel ファイル
Word ファイル 等

20 報告書等
 受託者は以下に定める報告書等のほか、法令等に定めがあるもの及び別途施設所管課が指示するものを提出すること。なお、以下の報告書等の様式及びデータの形式については統括監督課及び施設所管課と協議して決定するものとする。
⑴ 修繕完了報告書【修繕完了後10日以内】(提出先:施設所管課)
受託者は、補修・修繕業務が完了した際、工事図面、工事写真、納入仕様書等必要なもの、施設管理者の完了確認書を修繕完了報告書としてまとめ、提出すること。
⑵ 月間業務報告書、不良箇所管理表【作業等実施月の翌月20日まで ただし、3月実施分は3月31日まで】(提出先:統括監督課及び施設所管課)
これらについては、施設ごとに作成し、統括監督課及び施設所管課に提出すること。

— 以下略 —

⑷ 施設状況整理表【原則として業務実施年度の翌年度の6月まで(令和12年度は原則として3月31日まで)】(提出先:統括監督課及び施設所管課)
① 受託者は各年度の業務終了後、点検結果や修繕状況を基に、各施設の状態を整理した、施設状況整理表を作成し、提出すること。なお、点検結果及び修繕状況については、電子データでも提供すること。
② 施設状況整理表には、施設ごとに、施設全体としての総合的な状況、工種ごとの状況、特に早期の更新や改修を要する部分、管理上の注意事項等、今後の施設の改修計画を策定するために必要な情報を記載すること。

26 その他
⑴ 本業務の実施について、疑義が生じたとき又は本仕様書に定めのない事項については、本市と受託者が協議の上定めることとする。
⑵ 本業務における受託者からの提出書類については、16に定めるもののほか、可能な限り、電子データ(Microsoft社のWord、Excel、Adobe社のPDFファイル形式等)により提出すること

 尚、実施要領などの全文については、以下をご覧ください(PFI協会会員専用のページです)。

  https://pfikyokai.or.jp/pfi-data/houkatsu/data/01/126/index.html

 紙から電子的な報告に明確にシフトしています。電子データとしては、全般的にPDFやExcel帳票などを想定している様に見受けられます。

■茨城県土浦市

 2024-09-26に「土浦市公共施設包括管理業務委託に係るプロポーザルの実施について」が公開され、電子データの提供を求める内容の記述がありました。

 「土浦市公共施設包括管理業務委託仕様書」の特徴ある記載は以下となっています。

第2章 一般事項

15 報告書等
受託者が本市に提出する報告書等については、関係法令等で定めがあるもの、特記事項によるもの及び本市が指示するもののほか、次の電子データを提出する。
なお、定期での提出のほか、総括監督課からの提供の求めに都度応じるものとする

(2)業務報告書、不良箇所管理表(月間)、保守点検結果報告書
 施設ごとに作成し、原則として、作業等実施月の翌月15日(提出日が土、日、休日の場合は翌営業日)までに、総括監督課及び施設所管課に提出する。
イ 不良箇所管理表
 各施設の不良箇所と内容、緊急度、修繕等の期限(目安)及び修繕費用の概算等をわかりやすく一覧表等に記載し、不良箇所の位置や状況を示す図面や写真等を添付する。なお、業務期間中における不良箇所や対応経緯等を継続的に把握するため、同じ箇所について複数年にわたる指摘の履歴や対応結果等も含めてデータ更新を行うものとする

 尚、実施要領などの全文については、以下をご覧ください(PFI協会会員専用のページです)。

  https://pfikyokai.or.jp/pfi-data/houkatsu/unit/gov/08_ibaraki/tsuchiura/240926/index.html

 記載ヶ所は委託仕様書の6ページ目です。

 特徴は、提出を求める電子データの内容を具体的に記載している点です。特に、「同じ箇所」で不具合が繰返し発生する様な状況を分析するためのデータを求めている点が特徴的です。これを実現するためには共通データ仕様で実現している様に、報告書を記述する担当者が交替しても同じ「部位」や「設備」である事を判別できる様にしておくことが必要です。尚、「同じ箇所」が何を指すのかについては色々なケースが考えられるため、それぞれのケースに対応できる様にデータ仕様を策定しておく必要があります。詳しくはケーススタディ#5にも記載があります。

 尚、データ仕様は受託者独自のもので構わないため、事業者が交替した際には分析は困難ですので、「業務期間中における不良箇所や対応経緯等を継続的に把握」するとしてあります。

■熊本県山鹿市

 2024-07-01に「山鹿市公共施設等包括施設管理業務委託に係る規格提案書の募集について」が公告され、電子データの提供を求める内容の記述がありました。

 「山鹿市公共施設等包括管理業務委託共通仕様書(案)」の特徴ある記載は以下となっています。

第1章 総則

24 報告書等の提出
受託者が本市に提出する報告書等については、関係法令等で定めがあるもの及び本市が指示するもののほか、次により書類を提出する。また、各様式については本市と協議して決定するものとする。
(1) 定期報告
 受託者は予算の執行状況を毎月本市へ報告する。報告の際業務に応じて下記書類を添付する。

業務内容添付書類
ア 修繕業務修繕前後の写真
イ 敷地等の維持管理業務業務前後の写真及び業務箇所の地図
ウ 施設の計画的修繕業務修繕前後の写真
エ 設備保守管理等業務成果品
オ 本業務にかかるデータ整理業務成果品
カ 市営住宅空家修繕業務修繕前後の写真(必ず住戸ごとにまとめ、修繕箇所がわかるようにすること)
キ 市営住宅退去後確認業務退去跡住戸の写真(残存物処分を行った場合は処分前後の写真も添付すること)
ク 高齢入居者の見守り支援巡回日報等

(2) 随時報告
 受託者は(1)定期報告以外にも、本市の求めに応じ報告しなければならない。
(3) データ入力等
 修繕履歴台帳等を作成し、データ入力・取りまとめを行い、本市の求めに応じ報告しなければならない。
(4) 電子データの提出
 受託者は、報告書等について可能な限り加工・分析がしやすい電子データで、統括監督職員に提出すること。データの形式等、詳細については協議により決定する。

(5) 検査・確認
 本市は、受託者の提出した業務報告の検査又は確認を行う。また、仕様に適合しないとき又は不都合と認めたときは、受託者に対し業務の手直しを命ずることができる。
26 公共施設マネジメントシステム等によるによる情報蓄積
施設マネジメントツール等において、保守点検業務や修繕業務等のデータを市と受託者とで共有するシステムを運用すること。(データベース化)

 尚、実施要領などの全文については、以下をご覧ください(PFI協会会員専用のページです)。

  https://pfikyokai.or.jp/pfi-data/houkatsu/unit/gov/43_kumamoto/yamaga/240701/index.html

 記載ヶ所は委託仕様書の8~9ページ目です。

 特徴は、電子データの提出を求めている点とシステムの運用を求めている点です。特にデータベース化を明示的に求めている点が重要です。このデータベースの運用により、提出する電子データが幅広い要望に応えられることになります。但し、データ仕様は受託企業独自のものでも構わないため、事業者が交替すると電子データの内容が変わりますので、分析が難しくなります。

■山口県宇部市

 2024-06-12に「宇部市公共施設等包括管理業務委託公募型プロポーザル実施要領」が公告され、電子データの提供を求める内容の記述がありました。

 「宇部市公共施設等包括管理業務委託仕様書」の特徴ある記載は以下となっています。

第1章 総則

20 報告書等の提出
受託者が本市に提出する報告書等については、関係法令等で定めがあるもの及び本市が指示するもののほか、次により書類を提出する。なお、各様式については両者が協議して決定するものとする。

(3) 電子データの提出
受託者は、報告書等について可能な限り加工・分析がしやすい電子データで、統括監督職員に提出すること。データの形式等、詳細については両者が協議により決定する。

22 公共施設マネジメントシステムとの情報共有
受託者が提供する公共施設マネジメントシステムを用いて、保守点検等業務や修繕業務等のデータを共有することが可能であれば、その手法を提案すること。

 また、審査基準は「宇部市公共施設等包括管理業務委託に係る公募型プロポーザル審査選定基準書」の中で以下となっています。

審査項目審査要素配点
(9)追加の独自提案有益で特徴のある積極的な提案
・総合管理計画、個別施設計画の進捗の支援、中期保全計画作成、公共施設マネジメントシステムへの修繕、点検データの一元管理等
50
合計400

尚、実施要領などの全文については、以下をご覧ください(PFI協会会員専用のページです)。

  https://pfikyokai.or.jp/pfi-data/houkatsu/unit/gov/35_yamaguchi/ube/240612/index.html

 特徴は、データの共有について積極的な提案を求めている点だと思われます。審査基準でも提案に対し50/400の配点があります。

包括施設管理と指定管理の共存事例

 自治体によっては包括施設管理業務委託の制度と指定管理の制度の両方を同時期に使い分ける場合があります。ここでは、そのような場合の仕様書の記載事例を紹介します。尚、各事例に記載した説明は事務局で執筆したものであり、協議会で合意したものではありません。もし、誤認や記述漏れなどがありましたら、コメントを頂ければ助かりす。

■埼玉県鴻巣市

 2024年7月付で公開された「鴻巣市立市民センターの指定管理者を募集します」に包括施設管理にて実施する業務を切り分ける旨の記述がありました。

・鴻巣市立市民センター業務仕様書

8.業務内容

(2) センターの施設維持管理業務に関すること
 指定管理者は、次の事業を行うこと。業務遂行にあたっては、14頁以降業務水準を基礎とし、事業の実施詳細は、事業計画書にて配置体制・頻度フロー等にまとめ、提出することし、協議が整ったものを実施するものとする。
ア 施設の適正な運営のため、清掃、施設・設備点検等の保守管理及び修繕等を行うこと。なお、施設・設備点検等の保守管理及び修繕等の一部については、「鴻巣市包括施設管理業務委託」受託者(以下、「包括受託者」という。)が行います。(別紙のとおり)
③電気、空調、給排水等設備管理
・館内の電気設備、空調設備、給排水衛生設備等の各設備の日常巡視点検を行うこと。なお、施設及び施設に付帯する設備に不具合等が発生していることが判明した場合は、包括受託者が修繕対応するため、包括受託者まで連絡すること。

⑤ 修繕
・備品については、消耗、劣化及び破損又は故障により損なわれた機能を回復させるため、1件10万円(税込)以下を対象とした修繕を、協定で定めた予算額以内で執行すること。なお、1件10万円(税込)を超える修繕は市が行うが、緊急を要する修繕については、市と協議の上、修繕できるものとする。なお、施設及び施設に付帯する設備の修繕は包括受託者が対応するため、修繕が必要な場合は、包括受託者に連絡すること。

9.経費等について
(1) 予算の執行
ア 予算は、以下のとおり執行すること。
② 修繕費は、1件10万円(税込)以下について、器具等の実施するものとする。ただし、緊急を要する修繕は、1件10万円(税込)を超えるものであっても、市と協議のうえ修繕できるものとする。施設及び施設に付帯する設備の修繕は、包括受託者が状況を確認し、市の負担において、修繕を実施する。

14.業務を実施する際の留意事項
次の各項目に留意して円滑に実施すること。

(6) 施設の維持管理に当たっては、包括受託者と協力し、実行すること。

・管理業務水準

2 樹木及び花壇等の管理業務

(2) 管理の水準
① 花壇管理
 イ 除草(包括受託者が実施)
② 樹木管理(包括受託者が実施)

 ア ・・・以下略

3 施設設備の管理業務
(2) 管理の水準
① 消防設備(包括受託者が実施)

 ・消防法の規定及び・・・以下略

④ 空気調和設備(包括受託者が実施)
 ・空調設備の点検を・・・以下略

・業務委託契約一覧表

委託業務名令和7年度以降の実施者
指定管理者包括受託者
清掃業務(日常・定期)
機械警備業務
植栽管理業務(花の植え込み)
ピアノ調律作業
自動体外式除細動器(AED)
印刷室内印刷機リース
自動ドア保守点検業務
緑地管理業務(高中木剪定・低木剪定・除草)
自家用電気工作物保守管理(年次・月次)
消防設備点検業務(総合・機器)
昇降機保守点検業務(法定・定期・遠隔)
空調機器点検業務(保守・清掃)
空調機器点検業務(フロン)(3年に1度)※R5に実施
屋上ドレーン清掃業務
建築設備定期検査
建築物定期報告業務(2年に1度)※R5に実施
害虫防除・消毒業務

 尚、全文については、以下をご覧ください(2024-11-07現在)。

  https://www.city.kounosu.saitama.jp/page/25219.html